蕎麦好きの独り言(2015.10.15up)

その弐五、「特殊任務」


神秘の弁慶山地


めっきり朝晩が寒くなってまいりました。皆様はどのようにお過ごしでしょう。我が家では早くも石油ファンヒーターのお世話になっている方もおるようでございます。
鳥海山の初冠雪なんてのはとっくに過ぎてしまいまして、この間まで選挙人のように暑い暑いと連呼していたのが嘘のようでございます。ええ、誠に季節の移ろいが早く感じるこの頃でございます。

別に隠していたわけではございませんが、実は私、国家公務員なのでございます。
いやいや正確にはごく普通の会社員でありまして、また農夫でもございます。
この嘘つき者めが、とおっしゃる方もいらっしゃることでしょうが、天地神明に誓って本当のことであります。
公務員というのは副業が禁止されておりますから、絶対にそんなことはあり得ないことだと申す方もいらっしゃるかと存じますが、国務大臣からの辞令も頂戴しておりますから、決して嘘偽りを申しているわけではございません。

しかしながら国家公務員とは申しましても色々ありまして、筆者が拝領致しました辞令には任命期間が明記されております。察しの良い方はお分かりになったかと存じますが、実は非常勤かつ期間限定なのでございます。所属先は総務省であり国勢調査員という肩書き?がついております。
本年は五年に一度実施される国勢調査の年でございまして、本人が特別希望したわけでもないのですが国家公務員という身分を拝命致しました。
イーサン・ハントのようなエージェントの端くれになったような気も致しますが、全然嬉しくないのが本音でありまする。



辞令であります


筆者のようないい加減な人間がなれるのですから、ほとんど全ての日本国籍を有する成人なら問題なくなれると存じます。もし希望する方がおられましたら、今から五年後にその筋の方へ申し込めばよろしいかと存じます。
何でこんな事になったのかを簡単に説明致したいと存じます。
数年前の日曜だったか休日に家でまったりしておりましたら、近所に住む自治会長が突然現れたのでございましてこんな事を申されました。

「これからは自治会のためにお前のような若い人が(当時も今も中年です)なにがしかの仕事をしなければならないのだよ。さしあたり調査員という仕事に空きが出たので、絶対やるべきだ。さして難しい事をやるわけでないから、お前にも問題なく出来ると思うので、役場の方に名前を上げておくから宜しく頼む」と言うなり、くるりときびすを返すと、すたこらさっさと出て行ったのであります。その間筆者が口を挟む余裕などございませんでした。
その後、数回小規模な調査があり、その都度どこかの役所の手足となった次第でございますが、国勢調査のような大規模なミッションは今回が初めての体験でございます。

いやあ、国家公務員というのはホント激務であります。個人的感想を申せばもう二度とこんなミッションはやりたくはございません。アルバイトの国家公務員がこんなことを思うのですから本職の方々は、さぞかし大変だろうと察する次第でございますが、にわか公務員にとっては、盆と正月とお祭りが一緒に来た豆腐屋のような慌ただしさでございました。第一に時期が悪すぎます。
概ね調査が終了致しましたから詳細を申し述べたいと存じます。
えっ?聞きたくない。まあまあそう言わず少しの時間を頂ければ…


春に突然届いた一枚の封書で、この年に国勢調査が実施される旨の通知が調査員に登録されている方々に発せられます。そして調査に協力できるか否かのアンケート返答用の葉書が同封されておりまして、嫌だと思えば否と記して投函すればそれで済むのでございますが、気の弱い方々は登録されている事実がありますので、断り切れないのではないかと想像する次第なのでございます。
ええ、もちろん筆者は回答を保留しました。と言うか返信するのを失念していたのが本当のところでありますが…(汗)

そしたらある日、市役所の方から家に電話がありまして、お前は本当に調査に協力できないのか?と言う詰問調の脅し文句がございました。元来気の弱い質なので断ったら殺されかねない剣幕に恐れおののき、渋々OKの返答を致した次第でございます。
その後8月中に調査員説明会の日取りが案内されて来まして、9月の上旬の平日の昼一番で某所に集合せよとの指令が届いたのでございます。そこで辞令の交付と調査日程や調査方法、注意点などを説明され、登山用の25Lザック一杯ほどの重く大量な調査資料を手渡され、家に持ち帰って内容をよく確認しろと指示された訳でございます。

調査の内容は9/6〜9までに受け持ち区間の全体像をある程度把握し、
@9/10〜12にインターネット回答の利用案内の配布、
A9/17〜18にインターネット回答促進リーフレットの配布、
B9/26〜30までネット回答の無かった世帯へ調査票の配布、
C10/1〜7まで調査票の提出状況の確認と回収、
D10/8〜10まで確認状の配布、
E10/18〜20に調査票の回収できなかった世帯に督促状の配布及び回収、
F10/23までに回収書類を整理確認して市役所へ提出となります。

筆者の担当区域は80世帯ほどの対象家屋がありまして、事前に役所からいただける資料は、市販の住宅地図から家屋と街路だけトレースしたような紙一枚だけであります。世帯主や居住人員などの個人情報は提供されず、全て調査員が自分だけで調べなさいと言う事なのでありました。
役所にはそれらの資料があるのだと思いますが、例の悪法により公開できないと言う返答が容易に想像できましたので、敢えて突っ込まないことにしました。
また皆様ご存じのように、今回からインターネットによる回答が可能となりまして、それに伴いまして手順が増えることになります。と言うか我々エージェントにしたら倍の手間が掛かることになるのですよ、実際は…(汗)

このように文章にして書くと簡単だと思われる方もいるのかなと思われますが、実はこれ大変な労力を必要とするミッションなのでございます。
@のネット回答の利用案内の配布ですら、全世帯のドアをノックして、直接居住者に面会して配布しなければならないのであります。その際に今年から始まったシステムであること、IDとパスワードの使い方、出来ない人は後で紙の調査票を再度配布すること等、細部にわたって説明しなくてはなりません。当然昼にいない世帯もございますから夜に出直したり、それでも会えなければ別の日に出直すこともございます。当然迷惑そうな顔をされることも頻繁にございます。

筆者の住む田舎では都会と違って隣近所に知らない人など殆どいませんが、それでもちょっとした新興住宅街も存在しますから全然面識のない方もおります。幸いなことにマンションやアパートのような集合住宅が無いので少しは楽なのでありましょう。
80軒全てにお邪魔して上述したようなことをするのは、はっきり言って今の筆者の立場(会社員+農家)では不可能であります。当然守秘義務がありますので、家族といえども他人では代行できません。それでも何とかしなければならない訳でありまして、この辺がエージェントとしての能力な訳でございます。
しかしながらいくら頑張っても評価なんて変わる筈もないんですがね…(悲)

正直言ってやっている内にアホらしくなってきました。それでも一旦引き受けたからには、やらざるを得ないと言う義務感があったのでございますが、多分今後二度と引き受けることはないと思います。
日本全国に筆者のような公務員が何人いるか存じませんが、試しに調べてみましたら全世帯数は5千万ほどあるようですので、調査員1人当たり100世帯調べたとしても、単純計算で50万人の調査員が必要となります。いくら非常勤の臨時職員といえど、いくらか存じ上げませぬが報酬も発生致します。仮に1人1万円としても50億、なんともまあ豪気で恐ろしい話でございます。

この情報が国家にとってそれなりに重要なのは良いとして、そんなに正確なのでしょうかね。当然回答を拒否する人も大勢いる訳でしょうから、厳格な意味での実態なんて判らないと思います。判るのは傾向ですかな。マスコミの世論調査みたいなものかと考えておるところであります。とは言っても手を抜いている訳ではありませんからね。筆者の受け持ち区域では100%の回答率でありますから…(偉)
しかし今後もこのような形態で継続することに疑問は残ります。将来的には専門的な民間組織に委託する方向に進んでいくのではないかとも思われます。

今はこういった個人情報は保護されているなどと言っても実態はどうなんですかね。国勢調査程度の情報ならば何とでもなるのかも、実際筆者が住むような田舎社会では調べなくとも大体皆さんご存じですよ。
たとえばの話、ある組織の端末ではグーグルアースみたいな画面で、対象の家をクリックすると、家族構成、家族の年収、最終学歴や勤務先などは、瞬時に表示されるなんて話を聞いたことがあります。

また情報を保護する立場の役所が一番情報漏れがあるなんて噂もあるようですが…(汗)
かといって民間が絶対安全なんてなことにもなりはしませんが、世間ではあちこちの会社のお偉いさんが、マスコミの前で頭を下げているパフォーマンスが、繰り返し放映されております。そのようなことから過度に神経を使っていらっしゃる国民が多くなるのも必然かと存じます。

話は違うかも知れませんが、初めて公衆浴場に行った時には、そりゃ恥ずかしくて隠しましたよ。しかしそんなとこ隠して温泉に浸かっている方が逆に恥ずかしくなりましてね、おおっぴらに晒してる方が遥かに気持ちよいものでして、病みつきになる訳でございます。そして慣れればどうってことはないんですよ(笑)
大体の人は同じ物をもってる訳でして、そんなに違いやしませんから…

個人情報と言われるものでも、隠そうと思えば思うほど不安になるものでございます。そして本人は誰も知らないことだと思ってても、案外皆知っているのが世間というものでございます。

現在の総理は「一億総活躍社会」を提唱なさっておられますが、「一億総裸族社会」なんてのも有効なのではないでしょうかね。
ええ、もちろん冗談です…(笑)